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東京高等裁判所 昭和26年(う)1274号 判決

控訴人 被告人 佐藤晴

弁護人 菅原道彦

検察官 渡辺要関与

主文

原判決中被告人佐藤晴に対する部分はこれを破棄する。

本件を横浜地方裁判所に差戻す。

理由

弁護人菅原道彦の控訴趣意について。

第一点

被告人佐藤晴に対する昭和二五年七月一〇日附追起訴状記載第三準強盗の公訴事実中窃盗の罪のみを認めるためには訴因変更の手続を要するものでない且つそれがため審判の請求を受けた事件について判決をせず又は審判の請求を受けない事件について判決をしたという違法はないと解するのが相当である。蓋し準強盗の罪の訴因は該訴因中の被告人の窃盗の罪の成立(既遂でなければならぬ場合と未遂でも足る場合あるにしても)を前提とするものであるから裁判所は先ず必ず該窃盗罪の成否の判断をしなければならぬから準強盗の訴因中には常にその前提要件たる窃盗の罪の訴因を含むものと解する外ないからである。そして本件起訴状においても現に窃盗に関する事実を掲記しているのである。従つて若し窃盗の罪の成立は認められるが準強盗成立のために必要なその余の要件を認めることができない場合には訴因変更手続を経ないで窃盗の罪の成立のみを認めても何等所論のような違法の廉はない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 石井文治 判事 鈴木勇)

弁護人菅原道彦の控訴趣意

一、原判決は審判の請求を受けた事件について判決をせず審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある。 即ち本件に於て併合審理された被告人に対する昭和二十五年七月十日附追起訴状中第三によれば、「同年五月二十七日頃同区荏田町山内小学校荏田分校前仮設興行場先道路上に於て皆川喜久司所有の自転車に取付けてあつた同人所有の自転車用発電装置一組(価格約千五百円相当)を窃取し約一粁逃走したる際これを取還するため現場から追跡して来た渡辺雅夫(当十九年)松本堅太郎(当十八年)に対し同町字渋沢四千五百五十一番地先道路に於てその取還を免れる為所持するジヤツクナイフ(昭和二十五年押第二千二百二十一号の十六)を右松本に突付け以て同人等を脅迫しその反抗を抑圧して逃走したものである」とあるに原判決は「同年五月二十七日頃同区荏田町山内小学校荏田分校仮設興行場先道路で皆川喜久司の自転車に取りつけてあつた同人所有の自転車用発電装置一組(価格約千五百円相当)を窃取したものである」と判示している ところが右起訴事実である所謂準強盗の行為と判示事実である窃盗行為とは明らかにその犯罪構成要件を異にし従つて訴因を異にしているものである従つて新刑事訴訟法第三一二条所定の訴因変更の手続をとらない限り原審裁判所が審判すべき範囲は前記訴因を以て明示されておる準強盗の事実の範囲に限定せらるべきものであつて起訴事実である準強盗と判示事実である窃盗との間に事実の同一性の有無如何を問わず又これを変更することによつて被告人に実質的に不利益を与えるか否かを問わず原審裁判所は判示の如き審判はすることが出来ない而して原審公判調書を見るも本件に於て訴因変更の手続がとられていないことは明らかなところであるよつて原審裁判所は法定の手続を経ずに起訴状に記載された訴因を以て明示された公訴事実を認定せずにその他の事実を認定したものであつて新刑事訴訟法第三七八条に所謂審判の請求を受けた事件について判決をせず又は審判の請求を受けない事件について判決をしたものと謂わざるを得ない

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